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  • 執筆者の写真Tetsuki Nakakura

BIMの本音


今日は『BIMのホンネ』と題して、建築・建設業界に大きな変化をもたらしているBuilding Information Modelingの潜在的な課題2つについてお話したいと思います。

皆さんはBIM(Building Information Modeling) という言葉やRevitやArchiCADといったソフトの名前を聞いたことがあるでしょうか。

2013年に日建設計とArchiCADを作っているグラフィソフト社の戦略的パートナーシップが発表されて以来、日本でもBIMという言葉は業界全体に広がり、今やある程度以上の規模の物件では、ほぼ全てでBIMを活用しようという勢いになっています

属性を持ったオブジェクトを3次元上に配置し、任意の図面を切り出し、見積や積算も自動的に算出する。さらに建物を3次元上で先にデジタル竣工させることで、早期の合意形成を図ったり、現場での手戻りのリスクをなくしたり、といったように、BIMを導入することによるメリットというのは枚挙に暇がありません。

しかし、ここではもう少し現実的な、あるいは本質的な課題2つについて、お話しさせていただきたいと思います。

1つ目は、会社間のデータのやり取りに関する問題です。

1つのファイルにすべてのデータ・情報を入力していき、それを設計から施工まですべて受け継いでいけば作業が効率化され、全体の作業量も減るものだと思いますよね。

しかし、実際には、残念ながら別の会社と会社の間でCADのファイル自体をやりとりするということはほとんどありません。

これは、例えば設計会社から施工会社にCADのデータ自体を渡した場合、寸法を記入していない細部まで施工会社の方でCADを拡大して長さを測ることができます。仮にそのデータを信用して施工図を起こして、それに基づいた建物が竣工した後に瑕疵が見つかった場合、それは設計瑕疵なのか、あるいは施工瑕疵なのか、といった責任問題が生じてしまうためです。大きなゼネコンが設計施工一貫のプロジェクトで全てをある1つの会社の中で完結する、という場合は別ですけれども、通常は、ある会社が3次元でモデリングをして、そこから2次元の図面を切り出して、それを紙に印刷して設計図書として別の会社に渡す。設計図書を受け取った会社は、その紙の情報から、3次元のモデリングをまたし直す、といったように、“自作自演”ではないですけども、非常に二度手間となる作業が増えてしまいます。設計と施工というものが契約上もきちんと区別されている欧米の環境の下で開発されたソフトを日本に導入する際には、こういった会社間でのデータのやり取りに伴う責任の所在のあり方ですとかリスク管理の仕方といった制度的な面でも、きちんとアップデートを図っていかないといけないのではないでしょうか。

そして2つ目は、もっと根の深い職能の変化に伴う問題です。

BIMの導入によって、職能というものが大きく変わろうとしているこのときにおいて、日本では伝統的に職務規定というのがあいまいなことが多いです。BIMの導入が進めば、手作業での積算や見積というものは、次第になくなっていきます。

(※ちなみに積算や見積にも超絶なルールやノウハウがあるので、今すぐ簡単にBIMに置き換えられるようなものではありません。あくまでも将来的な展望としてです。)

しかし、その分設計の段階で、より高機能になったソフトへのデータの入力という手間が増えてきます。手書きの図面を使用していた時代から、2次元のCADを使う時代に入って、描かなければならない図面の量が圧倒的に増え、その結果、従来のドラフトマンと言われる職能に代わり、CADオペレーターという新しい専門職が生まれたのと同じようなことが、今2次元のCADから3次元のBIMへの変化で起こっているわけです

実はこれは、終身雇用を前提とした日本の企業にとっては隠れたメリットがあります。それは積算や見積のための採用人数を次第に絞っていき、その代わりに"設計"としての採用人数を少しずつ上げていく。その上で、社内的にはBIMを導入しようというスローガンを打ち出すことによって、ソフトランディングな部署異動ができるわけです。しかしその時、BIMのデータ入力者としての"設計"という職能は、もはや従来の"設計"という職能からは大きく乖離したものになっているかもしれません。

BIMや建設業界に限らず、技術革新によって、消えていくような職能もあれば、新しく必要とされ生まれてくる職能もある、これは当然のことです。その時、この事実をきちんと直視して、しっかりと職務規定を整えていく、あるいは必要となる部署を立ち上げる、そういった企業が、真の意味で新しい時代をけん引していくと思いますし、逆にそうでない企業というものは、いずれ淘汰されるのではないかと思います。

今日は、BIMについて、一般的に言われているメリットの裏に潜む大きな課題2つ、『会社間でのデータのやり取りに伴う責任の所在の在り方やリスク管理について』、『職能が大きく変わろうとしている現代における職務規定の在り方』、この2点についてお話させていただきました。

この動画が、ほんのわずかでも、日本におけるBIMの適正な運用、ひいては日本の建築業界・建設業界全体の発展に役立てれば幸いです。

ありがとうございました。

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