top of page
検索
  • 執筆者の写真Tetsuki Nakakura

人に話したくなるマニアックな銀座の話(後編)


ここまでで、銀座の大きな建物というのは、56m、あるいは工作物プラス10mの66mの高さだということが分かりました。だとすれば、小さな敷地を統合していって、そこに最高高さの建物を建てる、というのが自然な流れなのではないかと思いますよね。細長い建物一つ一つに階段とかEVをつくるというのはいかにも不合理です。しかし、実際には、このように小規模な敷地や建物というのも数多く存在していて、近年でも頻繁に建て替えが行われています。

後半では、大小様々な建物が共存して、賑わいを生み出している銀座について、4つの観点から考察してみたいと思います。

それは、

①川に由来する外郭の形成

②小規模宅地等の特例

③付置義務駐車場の隔地確保

④建築基準法上の階段・非常用EVの設置基準

の4点です。

第一に、敷地の統合が進められない大きな要因の一つに銀座の地価の高さがあります。江戸時代、銀座は四周を川に囲われており、現代はそこを幹線道路が通っていますから、銀座という街が周縁に拡張できないという事情があります。そのため、銀座地区の土地の値段というのはものすごく高くて、小さな敷地といえども、それを複数買って統合するというのは

莫大な費用が必要になります。これが敷地の統合が進まない理由の1つ目です。

第二に、銀座の敷地は代々引き継がれたものが多く、そもそも手放す人が非常に少ない、というふうに言われています。これには、小規模宅地等の特例という税制上の減免措置が一役買っています。これは、元々は、あまりにも小さな土地というのは売買がしにくく、相続に伴う負担が大きいという理由から生まれた措置ですが、特定事業用宅地等の場合、400㎡までは相続税評価額を最大80%減じてよいという制度です。これは銀座のような、値段がすごく高い土地では大きな効果があります。結果、相続の際の税負担というのも、そこまで大きくはないですから、相続を機に土地を手放そうというのは、非常にレアケースとなっています。

第三に、付置義務駐車場の問題があります。通常、商業系の特定用途と呼ばれる施設には、その床面積に応じた台数の駐車場を確保する義務があります。一方で、大通りに面した1階の床というのは非常に価値があって、他の階に比べて5倍~10倍の値段で貸すことができますから、そこを駐車場に取られてしまってはもったいない、という事情があります。実は、事業区域が500㎡未満の場合は、協力金を払い、駐車場の一部を隔地、別の場所に確保する、ということが認められています。これも、小規模な敷地のまま事業を行うことのメリットの一つです。

この駐車場の問題というのは、昨今もよく議論されています。中央通りはそもそも切り開きができませんし、その他の大通りもなるべくテナントのファサードに使いたいですから、大通りから一本裏に入った側に駐車場を設けようということになるわけです。結果、裏通りには駐車場がずらっと並び、歩行者にとって危ないですとか、賑わいがそこで途切れてしまうといった問題がしばしば取り上げられます。早朝の銀座に行くと、中央通りには誰も人がいいのですけれども、一つ裏の通りに入ると、テナントに荷物を運ぶトラックですとかゴミ収集車などで、大変賑わっているという不思議な逆転現象というのを見ることができます。歩行者の賑わいと必要な駐車台数の確保、この両立は、常に大きな課題の一つとなっています。

最後に、建築基準法による階段や非常用EVの設置基準についても触れておきましょう。詳細は割愛しますが、床面積の合計が1,500㎡を超える物販店舗や6階以上の居室を有する階には、2以上の直通階段を設けなければならないという決まりがあります。階段は売り場としては貸せませんから、もったいない、ということになるわけです。結果、小規模な土地では、5階建てくらいに留めて、床面積の合計が1500㎡を超えないようにしつつ、簡易な構造の屋外階段を1つつける、というのが、最小のイニシャルコストで最大限の賃料収入を得るということにつながるわけです。同様に、31mを超える高さの建物には、附室付きの非常用EVの設置というのが原則義務付けられています。原則はというのは、31mを超える部分の床面積の合計が500㎡以内ですとか、31mを超える部分の階数が4以下で100㎡以内毎に防火区画されているとか、色々例外があって、またそれが面倒くさいのですけど、原則は、です。原則は31mを超える部分があったら非常用EVを設けないといけないということです。これも、イニシャルコストを抑えて賃料を最大化したいという場合には避けたい基準ですので、先程の2以上の直通階段を設けなければならない規制と合わせて、5階建てくらいにすれば、31mを超えることはないか、ということになるわけです。このように、建築基準法からも小規模なビルと中規模なビルの間に結構なハードルがあって、それが銀座の街に小規模なビルも一定数存在するという要因の一つになっています。

まだ他にもいろいろ個別の事情ですとか、裏で働く原理というものはあるかと思いますが、今日は私の思いつくところで、前半の地区計画の歴史に加えて、

①川に由来する外郭の形成

②小規模宅地等の特例

③付置義務駐車場の隔地確保

④建築基準法による階段・非常用EVの設置基準

の4つの観点から、なぜ銀座に大規模な商業施設と小規模なビルが共存しているのかという点について考察を加えてみました。

こうして改めて銀座の街を見てみますと、それぞれの建物の時代背景や法規制とのせめぎ合いの中での設計的な工夫などが見えてきて、銀座の街並みもより一層魅力的に、興味深く見えてくるのではないでしょうか。

今は感染拡大の防止のため実際に"銀ブラ"しに行くというわけには参りませんけれども、今日は、こちらのパノラマ写真と私のマニアックな話で、少しでも散歩気分というものを味わって頂けたら幸いです。

ありがとうございました。

<参考文献>

銀座街づくり会議・銀座デザイン協議会HP

東京都都市整備局HP

中央区HP

建築基準法/建築申請memo

まち歩きマップメーカー (by Open Street Map)

東京都立図書館デジタルアーカイブ

国税庁HP

銀座文化研究別冊

閲覧数:38回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page