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稲附山法真寺本堂改修

 この度,稲附山法真寺本堂改修工事の設計・監理を担当させて頂きました.昭和五七年に落慶された現在の本堂は,桁行5間・梁間4.5間,背後に一間四方土蔵造りの内陣を突出する平面形式です.かつての日蓮宗寺院に多く見られた吹放外陣を内部に取り込む形で広縁を前面に配し,脇の間の名残として左右に位牌堂と床の間を有した外陣を持つ,伝統的な空間構成を採る一方,内陣は防火上の理由から大壁のモルタル塗りとしたり,板敷と畳敷部分の段差をなくしたり,現代の実用性にも即した,実に巧みな設計がなされています.

 

 ただ,照明器具については,演色性の乏しい蛍光灯が主で,スポットライトについても電球が放つ熱によって仏具等が日焼けする恐れがありました.そこで,全ての照明を省エネルギー・長寿命であるLED器具に取り換え,長押上部の聚楽壁や欄間彫刻,須弥壇背後の金箔壁を照らし上げることで,空間全体で照度を確保する計画としました.その他,小型のスポットライトや,ユニバーサルダウンライトを仏像や仏具に合わせて注意深く配しています.全ての照明は,121色の調色・調光に対応しており,時間帯や使用状況に合わせてタブレット端末でシーンを自由に変更することができます.

 

 また,演出照明の意匠性を損なわないように,空調の吹き出し口や煙感知器,人感センサー等についても,青森ヒバにカシュー漆塗りの格天井に合わせた特注色のものに変更しています.さらに,床については,傷ついた尾州桧の縁甲板表面を0.8mm程度研磨し,マットな質感のウレタン塗装を2度塗り重ねることで,自然な木目が上品な表情を呈しています.

 

 今回の設計では,何か特別な所作を加えたわけではありませんが,むしろ,長い年月の中で蓄積された歪みを一つずつ取り除き,各要素を丁寧に整理した上で,現代の照明器具をそっと付け加えることで,設計者自身も法真寺本堂が持つ空間の豊かさに改めて気付かされました.本工事にご協力いただいた皆様に,心より感謝申し上げます.

敷地: 東京都北区

竣工: 2022年6月

用途: 寺院

設計・監理:株式会社中倉徹紀建築都市設計

史料収集・調査協力:萩原まどか
施工:

 大鐵(大工造作)
 有限会社富士電業者(電気設備)
 有限会社トスマック(空調設備)
 松井防災産業有限会社(防災設備)
 有限会社ふじ美装(床美装)

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